石内研究室 2020年5月1日スタート

理学院化学系石内研究室は2020年5月1日にスタートした新しい研究室です。
科学技術創成研究院・化学生命科学研究所から異動してきました。実験装置はしばらくは化学生命科学研究所に設置したままで、生命理工学院の学生さんとも一緒に実験しながら、研究を進めていきます。
理学院の学生の皆さん、2021年4月からの石内研初代学生となれる、最初で最後のチャンスです!
新入生大募集中です!

分子認識に代表される分子が連携して機能を発揮するシステムー分子システムが、なぜうまく機能するのか?
冷却イオントラップ・レーザー分光を用いて研究します


分子認識は、生命を維持するための機能の一つと言えます。生体内は多種多様な分子が混在していて、その中で特異的な反応を起こさせるためには、特定の分子を選ぶ機能ー分子認識が不可欠です。また、遺伝情報はDNA塩基対の分子認識によって保存されています。神経伝達物質やホルモンなどによる情報伝達もそれらと受容体タンパク質の間の分子認識によって成り立っています。さらに、抗原・抗体反応の様な、自己と他者を区別するという生物として最も基本的で重要な機能はまさに分子認識そのものです。化学者は、この様な巧妙な分子システムを模倣することで、私たちの生活に役立つ新しい分子システムの構築を目指して、日夜研究しています(超分子化学)。

ところが、この仕組みがどうなっているのかがよくわかっていません。
例えば、クラウンエーテルです。クラウンエーテルはアルキル鎖がエーテル結合で結ばれた環状分子で、金属イオンとキレート錯体を作ります。その環の大きさに応じて、包接する金属イオンに選択性があることが知られています。

クラウンエーテル

イオン選択性は一見単純に見えますが、実はそんなに単純ではありません。周りに溶媒がない真空中だとイオン選択性がありません。つまり、イオン選択性には溶媒分子の関わりが必須だということです。ですから、一見単純そうな分子システムのからくりは実はとても複雑で、その仕組みを解明するには最先端の測定実験や計算化学によるアプローチが必要なのです。

冷却イオントラップ・レーザー分光って何?


一言でいうと、「孤立した極低温の分子の分光測定」です。「孤立した」とは、周りに溶媒分子のない状態で、宇宙空間に分子が1個だけ浮いている様な状態を想像してください。

この様な状態だと、当然、溶媒分子が周りに存在しないときの分子の状態を研究できますが、それだけではなく、有限個の(個数を制御した)溶媒分子で溶媒和された状態を研究することができます(詳しくはこちら)。
さらに極低温に冷却することで、室温では様々な構造の間を揺らいでいる状態を「瞬間凍結』します。これにより、室温状態では異性体として区別できない種々のコンフォメーションを異性体として区別できる様になり、柔らかな分子の構造化学研究が可能になります。

このような状態を実現するのが、冷却イオントラップです。これは真空中に導入した分子イオンを空間的に捕捉して極低温に冷却する装置です。イオントラップ自体は4Kまで冷却されていいますが、トラップされた分子イオンはおよそ10K程度まで冷却されます。

イオントラップには目的の分子イオンを溜め込むことができますが、通常の分光測定で用いる溶液などと比べると遥かに濃度は低く(~1pmol/L)、吸収分光法(入射光に比べて出射光の強度がどのくらい減ったかを測定する方法)を用いることは困難です。この様なときに威力を発揮するのが、「アクション分光法」です。アクション分光法とは、光の吸収を出射光の強弱で検出するのではなく、光を吸収した結果起こる別の現象を検出することで、吸収スペクトルに相当するスペクトルを測定する方法です。もちろん、観測される強度は

レーザ共鳴多光子イオン化(REMPI)ー混合物中を狙った分子だけを高効率イオン化


現実に即したもう一つの不均一系は環境測定です。特に燃焼は焼却炉や内燃機関など身近で有用な現象ですが、これらの現象を微量な物質までリアルタイムで実際に何が起きているのかを測定した例はほとんどありません。
これは、従来の分析化学では濃縮・抽出と言った前処理によって感度を向上させていたためで、ダイオキシンや多環系芳香族といった超微量で人体に有害な物質に関しては2週間といった長大な期間が前処理のみに費やされています。
私たちは分子・クラスターの研究を通して高感度な分光法を開発しており、これを用いることでこの問題を容易に解決しました。具体的には共鳴多光子イオン化(REMPI)という方法です。
これは、物質の吸収帯(色)と照射するレーザーの波長が一致するとイオン化効率が劇的に高くなるという現象を利用するものです。
混合物の中で自分が注目する物質にレーザー波長を同調させるとその物質だけを一切の前処理なしでイオン化検出できます。
しかも共鳴効果のお蔭で実績感度は50,000分子/cm3という超高感度です。これを実際のゴミ焼却炉に接続し、ダイオキシン前駆体である塩化ベンゼンを10秒間隔のリアルタイムで前処理なく検出する事に成功してます。
現在、この方法はイオンビームと組み合わせて微粒子の履歴解析装置の開発(先端計測分析技術・機器開発事業)および環境・燃焼ガスに関するレーザー多光子分析(統合研究院プロジェクト)として推進されています。