1)求電子的な遷移金属錯体によるアルキンの活性化を利用する炭素骨格構築反応

最近、求電子的な性質を持つ遷移金属錯体によるアルキンの活性化を利用した炭素−炭素結合生成反応の開発が活発に行われています。我々は6族金属のカルボニル錯体に着目し、これが0価金属であるにもかかわらずカルボニル配位子の強い電子求引性により、高い求電子的な活性化能を持つことを利用して、各種の炭素骨格形成反応を開発しています。

例えば、分子内にシリルエノールエーテル部位を有するアルキンを基質として、これに触媒量のタングステンカルボニル錯体を作用させると室温で速やかにアルキン部位へのシリルエノールエーテルの求核的環化反応が進行し、環状化合物が得られることを見出しています。最近、分子内にシロキシジエンを有するアルキン類を用いると、連続環化反応により二環性炭素骨格を一挙に構築できることを見出しました。この反応はアルキンの同一炭素上で二つのC-C結合生成が起こる、全く新しい形式の反応です。さらに本反応においては、レニウムカルボニル触媒が極めて高い触媒活性を有することも見出し、これまで有機合成に積極的に活用されていなかったレニウム化合物が、さまざまな炭素骨格構築反応に利用できることを明らかにしました。