5)炭素—水素結合活性化を鍵とする合成反応の開発

炭素-水素結合の位置選択的な活性化とその炭素-炭素結合生成反応への利用は、分子効率の高い反応開発の筆頭にあげられる重要な課題といえます。我々はこれまでほとんど例のない、分子内の官能基から複数の結合を隔てた任意の位置(遠隔位)に存在する炭素-水素結合を遷移金属錯体の作用により選択的に活性化し、炭素-炭素結合生成反応に利用することを目的に、1)基質分子の炭素-水素結合の位置を判別するための基質認識手段、ならびに、2)炭素-水素結合の切断を可能にする高活性な金属触媒、の二つの要素を併せ持つ新規な機能性遷移金属錯体の創製を目指し検討を行っています。剛直な配位子(スペーサー)の両末端に基質捕捉部位と基質活性化部位を配置し、基質捕捉部位に捕捉された反応基質が基質活性化部位に近づき易いような空間的配置を持つスペーサーを設計・合成し、これを用いて直鎖アルカナール、アルカノール等との反応により、官能基から特定の原子数を隔てた位置にある炭素-水素結合の選択的活性化の実現を目指しています。まだまだ夢のような話ですが、最終的には任意の位置の炭素-水素結合のカルボニル化反応やオレフィン類とのカップリング反応等を実現したいと考えています。

また、適切な位置に配置したアルキン、アルケン等に遷移金属を配位させることにより、特定の位置の炭素-水素結合を活性化し、酸化的付加によって得られるアルキル金属中間体を利用して不飽和分子への挿入反応を行い、環化体を得る反応についても研究を行っています。配位子の立体的・電子的な制御により、強力な還元力を金属に付与すると同時にβ脱離を防ぐような工夫を行い、実用的な反応の開発を目指しています。最近分子内ロジウム移動を利用するC-H結合の活性化を利用して、簡便なインダノン誘導体の合成法を見いだしました。