updated March 4, 2014



INTRODUCTION

機能性金属錯体分子の設計と合成

金属錯体は、有機および典型元素化合物から構成される配位子が金属イオンの周囲を取り囲んだ化合物です。金属イオンの種類や性質は限られていますが、多種多様な配位子に組み込むことにより、個性豊かな金属錯体を無尽蔵に産み出すことができます。我々の研究グループでは、配位子設計に基づいて金属錯体を合成し、その構造と物性・反応性の相関関係について理解を深めようと研究を行っています。特に、新しく設計・合成した金属錯体を「構造が明確な反応場」として用いて、通常では反応性が乏しい窒素分子、一酸化炭素、二酸化炭素などの無機小分子の新しい反応の開拓を行っています。現在の研究課題としては、(1)新しい配位子の設計と合成、(2)多座配位子の配位化学、(3)電子欠損型ヒドリド錯体の化学、(4)金属錯体をもちいた無機小分子活性化に取り組んでいます。錯体化学は、有機化学および無機化学における知見を活かして、金属イオンと配位子を選択し、ひとつの分子に組み立てることにより、これまでに無い物性や反応性を如何に導き出すかに挑戦する化学です。したがって、その研究対象は機能性材料から触媒まで多岐にわたります。川口グループでは、「自分たちがつくり出した、自分たちの金属錯体」を足場にして、この広範な分野に自分自身の科学を築く意欲のある人を待っています。

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OVERVIEW

新しい配位子の設計

金属錯体の反応性・物性の研究を進める際に、配位子の設計・選択は非常に重要な位置を占めます。川口研究室では、フェノキシドを基本骨格とした柔軟な構造を持つ多座配位子や配位不飽和状態を安定化する嵩高い配位子を設計し、それぞれの特性を活かした単核および多核金属錯体の化学について研究しています。また、チオラートやカルベン配位子などを組み込んだハイブリッド型配位子についても研究を進めています。

金属錯体の合成

設計した配位子を金属塩化物などと反応させて金属錯体を合成します。川口研究室では、チタン、ジルコニウム、ニオブなどの前周期遷移金属錯体から鉄などの後期遷移金属錯体まで幅広く研究を行っています。配位子によって制御された金属錯体の反応場を利用し、さまざまな無機小分子(窒素、水素、一酸化炭素、二酸化炭素)の活性化に成功しています。反応活性な金属錯体は酸素や湿気に対してとても不安定なものが多いため、不活性なアルゴンで置換されたグローブボックス中で取り扱います。

結晶構造解析

合成した錯体の性質を理解するには、その分子構造を正確に知ることが重要になります。複雑な金属錯体の分子構造は主にX線結晶構造解析によって決定します。錯体分子が三次元的に規則正しく並んでいる単結晶にX線をあてると、その構造に由来する散乱X線像が観測されます。その散乱されたX線の位置と強度を収集し、数学的変換を行うと、分子の三次元構造が得られます。単結晶が得られない錯体については、NMRや質量分析計などを駆使して構造を明らかにします。

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TOPICS

窒素分子の三重結合を切断する金属錯体

窒素はすべての生物に必須の元素であり、窒素分子(N2)として空気成分の78%を占め、最も豊富で入手しやすい元素です。しかし、窒素分子は極めて安定であり、分解しにくく、他の分子と反応しにくいことが知られています(不活性分子)。そのため、窒素を利用するには、窒素分子を他の反応しやすい分子、物質へと変換することが必要となります(窒素固定)。

現在、窒素固定は以下の2つの行程で行われています。1つめは自然界で行なわれているもので、マメ科植物(クローバー、ソラマメなど)の根粒に共生する根粒菌やラン藻類が常温・常圧で窒素分子をアンモニア(NH3)へと変換し、これを窒素源として生命活動に必要な物質をつくりだしています。2つめは工業的な方法であり、500度、1000気圧という高温・高圧の条件で水素分子(H2)と窒素分子(N2)を反応させることによりアンモニアを合成し (ハーバー・ボッシュ法)、医薬品や工業製品の原料として 利用しています。しかし、窒素固定はこれらの2つに限られており、窒素分子の新しい反応性を開拓し、無尽蔵に存在する窒素分子を自由自在に取り扱う手法を確立することは、化学者が挑戦すべき課題のひとつです。

上に挙げた2つの窒素固定では、ある種の金属をふくむ化合物が窒素分子を活性化し、アンモニアへの変換反応を促進しています。その反応過程で、金属に水素原子が結合した化学種(金属ヒドリド)が重要な役割を担っていると考えられています。このことに着目し、私たちの研究グループでは、ヒドリド錯体による窒素分子の新しい活性化反応に取り組んでいます。最近、2つの金属(ニオブ:5族遷移金属)を4つのヒドリドが架橋した金属錯体が窒素分子と反応することを見出しました(図参照)。これは、ヒドリド錯体を用いて窒素分子のN-N三重結合を切断した世界で初めての例です。今後、反応を詳細に調べることにより、新しい窒素固定化反応への道を拓くと期待しています。

☆この研究成果はAngewandte Chemie誌の「Very Important Papers」に選ばれました。☆

一酸化炭素の還元的カップリング反応を起こす金属錯体

一酸化炭素(CO)は赤血球のヘモグロビンと結合しやすいことから、その毒性に注目されやすい化合物です。その一方で、合成化学において非常に有用な化合物であり、重要な炭素源として用いられています。工業的なプロセスにおいても、フィッシャー・トロプシュ法などが開発され、一酸化炭素から炭化水素化合物を合成することが可能となっています。

一酸化炭素を用いた反応性の1つとして、一酸化炭素が繋がったポリケトン化合物の合成の研究が古くから行われてきました。自然界に存在する化合物でも複数のカルボニル基が繋がった化合物は非常に珍しく、ポリケトン化合物は多くの反応点を有する有用な合成材料として期待されています。これまでに報告されている一酸化炭素を原料としたポリケトン化合物合成反応は、一酸化炭素の還元を行い繋げていくという方法です。その理由として、中性のポリケトン化合物が非常に不安定であるのに対して、アニオン性のポリケトン化合物は安定に存在するため、環状のアニオン性ポリケトン化合物が合成されてきました。

最近、私たちの研究グループでは、2つの金属(タンタル:5族遷移金属)を3つのヒドリドが架橋した金属錯体に一酸化炭素を反応させることで、一酸化炭素が直鎖状に6分子繋がる反応を見出しました(図参照)。これまでの一酸化炭素を原料とするポリケトン化合物合成は、fブロック元素を用いた錯体もしくは強力な還元剤であるアルカリ金属によって一酸化炭素を還元する反応で環状のポリケトン化合物を合成する反応でした。私たちの研究グループの見出したポリケトン化合物合成反応は、dブロック元素を用いた反応としては初めての例であり、直鎖型のポリケトン化合物を合成した反応としても初めての例です。この反応によって、これまで環状構造に限定されていたポリケトン化合物合成に、直鎖構造という新たな可能性を見出せました。

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