Research of Kouchi-Kitajima Laboratory

河内・北島研究室では、シンクロトロン放射光・電子衝突に誘起される様々な分子の反応素過程を、「反応とはミクロ世界の衝突現象である」との立場から研究しています

(1) 電子衝突による多電子励起分子の研究
(2) 放射光励起による多電子励起分子の研究
(3) 化学反応における分子の立体ダイナミクス
(4) 超低エネルギー電子-分子衝突実験

現在はこの4つのテーマを大きな柱として、またこれらの研究のために独自の実験手法・装置を開発し、最先端の研究を行っています。

また、河内・北島研究室では新たな実験手法や装置の開発も重要な研究活動の一環であるので、研究室での活動を通して、「実験」という事を深く勉強するという点も大きな特徴と言えます。




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河内・北島研究室では、分子超励起状態について研究を行っています。
第1イオン化ポテンシャルエネルギー以上のエネルギーを持つ状態にあるが、イオン化せずに中性を保っている分子を「超励起状態にある」と言い、
そのような分子のことを超励起分子といいます。

超励起分子のなかでも特に我々が研究しているのは、分子の基底状態を良く記述するHartree-Fock 近似に代表される一電子平均場近似、
またBorn-Oppenheimer 近似の破綻が予想される系として注目を集めている、多電子励起分子の関与する反応素過程を中心に研究を進めています。
分子超励起状態は様々な解離の過程と結びついており、多くの反応の中間体として重要な役割を演じます。
我々は分子超励起状態、特に多電子励起状態がどのように生成、崩壊していくかを解明するために研究を進めています。

上の記事は、この分野の不思議さの一端について。河内教授が以前に解説したものです。

電子衝突による多電子励起分子の研究 -光子標識付き電子エネルギー損失分光法の開発-

 分子の第一イオン化ポテンシャルエネルギー以上の内部エネルギーを持つ超励起状態の一種である、多電子励起分子の生成・崩壊のダイナミクスを、電子衝突により調べています。多電子励起分子は、分子の基底状態を良く記述するBorn-Oppenheimer近似、さらにHartree-Fock近似に代表される独立粒子近似という、基本的な2つの近似の破綻が予想される分子科学における興味深い研究対象の一つです。
 電子衝突により原子や分子の励起状態を調べる手法として、電子エネルギー損失分光法 [Electron Energy-Loss Spectroscopy, EELS] は一般的、かつ有用な手法です。しかし、多電子励起状態の存在が予想されるエネルギー領域では
直接イオン化の寄与が大きく、電子エネルギー損失スペクトル中においても多電子励起に起因する構造は観測されません。これは直接イオン化の寄与が圧倒的であるため、、多電子励起状態に起因する構造はその中に埋もれてしまっている状況にあるのです。すなわち、イオン化の影響をいかに受けないスペクトル測定を行うか、という点が多電子励起分子を観測する上での重要な鍵となります。

 この問題を解決するため、我々は「コインシデンス電子エネルギー損失分光法」[Coincident Electron Energy-Loss Spectroscopy, CoEELS] という独自の実験手法を開発・実用化しました。本手法では多電子励起が生成した後の中性解離により生成する、励起フラグメントが放出する真空紫外域のけい光光子で標識した電子エネルギー損失スペクトルを、電子・光子同時計数測定により測定します。各損失エネルギーにおいて得られた同時計数率を規格化することで、イオン化の寄与を受けにくい真空紫外光子で標識した電子エネルギー損失スペクトルが得られ、そこから多電子励起分子に関する情報が得られます。

 また最近、散乱電子の検出器として位置敏感型検出器を用いたCoEELS 装置を開発しました。各損失エネルギーごとに一点、一点個別に測定して電子エネルギー損失スペクトルを得る、散乱電子の検出器として電子増倍管を用いた従来の装置と比較して、この散乱電子の検出器として位置敏感型検出器を用いた装置では、ある範囲のエネルギー損失のスペクトル測定を一度の測定で行えることから、より迅速な測定が可能となりました。

 さらに詳細をお知りになりたい方は、例えば以下の論文を参照してください。

...etc



放射光励起による多電子励起分子の研究

 電子衝突による多電子励起分子の研究だけでなく、光励起により生成する多電子励起分子の生成・崩壊のダイナミクスも調べています。光(シンクロトロン放射光)を用いた場合においても、多電子励起分子の観測には電子衝突の場合と同様の困難さ、すなわちイオン化の大きな寄与の問題があります。

  最近我々は、多電子励起分子を観測するための (γ, 2γ) 法と名付けた新たな実験手法を確立しました。 本手法では、光励起により生成した多電子励起分子の、中性解離により生じる二つの励起原子の放出する二つの真空紫外域のけい光光子を、 光子・光子同時計数測定により検出します。本手法の利点は、二原子分子の光励起の生じるエネルギー全体の範囲に渡って、イオン化の寄与を受けない断面積測定が可能なので、断面積カーブにおいて多電子励起状態の特徴がより顕著となる測定が可能となります。

 我々はこれまでに、この手法をいくつかの二原子分子 (H2, N2, O2, NO) に適用し、これらの分子の多電子励起状態のダイナミクスに関する興味深い結果を得ています。



電子-分子衝突過程における立体ダイナミクスの研究

 配向分子‐電子衝突実験を実現するための新たな実験手法の確立を目指し、新しい実験装置の開発と製作に取り組んでいます。配向とは2原子分子でいうところの分子軸を拡張した概念であり、分子の配向に対する電子の入射方向や散乱方向が異なれば、各々の衝突過程も異なると考えられます。しかし従来の実験手法では、分子の自由な回転により、配向について平均化された情報しか得ることができません。その配向までも規定した衝突実験を行うことは、反応ダイナミクスを「立体的に」観測することにもつながるものとして重要であります。


超低エネルギー電子と分子の衝突ダイナミクス

 数meV程度の低エネルギー電子と分子との衝突過程を調べています。 室温程度のエネルギーを下回るエネルギーの電子ビームは、電子のド・ブロイ波長が原子・分子のサイズよりも遥かに大きくなり、衝突過程においてより顕著に量子力学の効果が現れることが期待されます。我々はこのような衝突過程を "Cold Collisions" (冷たい衝突)と呼び、分子の新たな量子ダイナミクスの観測を目指しています。