腰原・沖本研究室
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研究概要:中性イオン性転移を示すTTF-CAの光誘起相転移
トピックス
電荷移動錯体 TTF-CA

内在する長距離のクーロン相互作用が原因となって、電子供与体(TTF)と受容体(CA)の間で共同的な電荷移動を伴う中性−イオン性相転移(N-I転移)が発現する(転移温度約82K)ことがよく知られています。中性相(高温相)においては電荷移動度が0.3という小さな値であるのに対して、イオン性相(低温相)では0.7と高い値となります。加えて、イオン性相では構成分子積層格子に2量体化歪が生じ、反転対象性が破れて強誘電体となっています。我々はこのN-I転移が、フェムト秒レーザーの励起によっても可逆に発生させられることを、結晶の光学特性変化から明らかにしてきました。光誘起N-I転移は生体内光エネルギー利用の基本反応である、光電荷移動現象の極限モデルともなっており、生命科学にとっても興味深い現象です。さらに我々は、この光誘起N-I転移に伴って、非線形光学特性(第2高調波(SHG)発生効率)が大きく変化することも明らかにして来ました。これらの結果は、光誘起N-I転移に伴って反転対象性が破れ、言い換えれば格子構造が、数ピコ秒から数10ピコ秒の時間スケールで高速に変化していることを示唆しています。しかし実際にこの予想を確認するためには、極超短パルス光励起下での動的な構造解析が必要となります。このような問題意識のもとに我々は、フェムト秒レーザーとSOR光同期システムを保有するレンヌ大学グループほかのヨーロッパグループとの共同研究を提案し、ESRF(ヨーロッパ共同放射光施設、European Synchrotron Radiation Facility)にある装置を改造し実験を行いました。その結果、光励起により生成されたイオン性相では、予想に違わず結晶の2量体化が生じており、反転対称性が光励起後に破れて、光誘起強誘電的秩序が生み出されていることを初めて実証することができました。またその構造変化が、構成分子のわずかな、しかし集団的なすべり運動によって起きていることも、この動的構造変化の観測によって初めて明かとなりました。これらの実験結果は、電子状態と結晶格子変形とが強く結びついた電子-格子強相関材料での動的協同変化を微視的(アトミックスケール)レベルで解明した最初の報告として注目されたばかりでなく、光励起とSOR同期システムという新しい観測手段の意義を具体的に示しています。



光誘起N−I転移に伴う平均的格子構造変化。 左が光励起前(Δt=−2ns)、右が光励起後(Δt=+1ns)。光励起によって、等間隔に並んでいた分子の間にわずかな格子変形が生まれて2量体化が起こります。これにより中央図に示す2回らせん軸(21軸)が消失し対称性が低下します。 光励起後N−I転移に伴う動的格子変形。左が光励起前−2ns、右が光励起後Δt=+1nsにおけるX線回折実験結果。光励起によって反転対称性が破れたことを反映する(030)面による回折パターンが出現しています。

“Laser- Induced Ferroelectric Structural Order in an 0rganic Charge-Transfer Crystal”, Science, vol.300, p.612~615, 2003  E. Collet,他