腰原・沖本研究室
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電荷分離相転移を起こすEt2Me2Sb[Pd(dmit)2]2の光誘起相転移
Et2Me2Sb[Pd(dmit)2]2では、Pd(dmit)2分子が積層して2次元伝導面を形成している。この伝導面がカチオンであるEt2Me2Sbの相と交互に積み重なり結晶となる。このPd(dmit)2分子は形式価数1/2の陰イオンであるが、面内で強く2量体を形成している為、2量体を単位とする1/2フィリング系となっている。この為、室温では電子相関が露に顔を出し、モット絶縁体である。このモット絶縁体相は2量体の組むネットワークが理想的に近い三角格子系となっているために、磁気的にフラストレートした2次元電子系の典型例として、精力的な研究がなされている[1]。しかし、低温に下げていくと、2量体の価数が自発的に2種類に分かれ(-1価->0価+-2価)整列する事により、このフラストレーションが解消されている事が磁性[2]、光学スペクトル[3]、X線構造解析[4]などの結果からわかってきた。この物質に特有のこの低温相の事を“完全電荷分離相”と呼ぶ。この完全電荷分離相の発現には、Pd(dmit)22量体における軌道交差の存在が大きな役割を果たしていると考えられている。Pd(dmit)2分子のHOMOとLUMOのエネルギー差は結合に関与するPdのd軌道の対称性により非常に小さい。この為に2量体を組んだときにLUMOからなる結合


図1. Pd(dmit)2分子と[Pd(dmit)2]22量体の分子軌道


軌道がHOMOからなる反結合軌道よりもエネルギーが低くなり(図1)、結合性軌道のみを電子が完全に埋める0価の2量体が非常に安定となる。これが、完全電荷分離相の発現機構と考えられている。


図 2 低温相における光励起直後の反射率スペクトルと数値シミュレーションの結果


我々は、この低温完全電荷分離相において2量体内遷移をトリガーとして起こる光誘起相転移を発見し、そのダイナミクスや特性について調べている[5]。図2は、チタンサファイア再生増幅器を用いたフェムト秒パルスレーザーによるポンププローブ分光法により測定した50Kにおける光励起直後の反射率スペクトルである。この系においては、近赤外領域の反射率スペクトルに二量体内遷移(図1のb-HOMOからa-HOMO又は、b-LUMOからa-LUMO)に対応するピークが観測される、このピーク構造のピーク位置は二量体化の強さによって決まる為、2量体の価数変化によって大きく変化する。光励起前に2つあった反射率ピークは、光励起により大きく構造を変え、あたかも一つのピークになったかのように見える(図中白丸及び黒丸)。この結果は、光励起により非常に短時間の間に2量体の価数が大きく変化した事を示している。図2中の色つきの波線は、光誘起状態が高温相であるダイマーモット相と同じスペクトルを示すと仮定して数値シミュレーションを行ったものである。観測されたスペクトルは数値シミュレーションの結果と非常に良い一致を示しており、低温完全電荷分離相が高温相であるダイマーモット絶縁体相のような平均価数の状態に相転移した事が示唆される。現在、光誘起ダイナミクスの温度依存性や、励起強度依存性、組成依存性などが研究進行中である。
本研究は、理化学研究所の加藤グループ、東京理科大の田村研究室及びRennes大学との共同研究である。

References
[1] M. Tamura and R. Kato, Sci. Technol. Adv. Mater, 10, 024304 (2009).
[2] M. Tamura, A. Tajima, and R. Kato, Synth. Metals, 152, 397 (2005)
[3] M. Tamura et al., Chem. Phys. Lett., 411, 133 (2005)
[4] A. Nakao and R. Kato, J. Phys. Soc. Jpn., 74, 2754 (2005).
[5] T. Ishikawa et al., Phys. Rev. B 80, 115108 (2009).