腰原・沖本研究室
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時間分解Laser-PEEMの開発
〜電子の緩和・運動をフェムト秒及びナノスケールで動画撮影〜
コンピュータのメモリや太陽電池には半導体材料が利用されており、その動作性能は、電子・正孔の高速な移動特性に依存する。さらに、半導体の微細化技術、及び、ナノ結晶の成長技術の発展に伴い、近年のデバイスは小型化が顕著である。そのため、ナノスケールで起こる超高速の電子ダイナミクスを観察する技術が活発に研究されているが、過去に成功例はない。そこで我々は、フェムト秒パルスレーザーによるポンプ・プローブ法と光電子顕微鏡(PEEM)を組み合わせた時間分解Laser-PEEMを開発した。この顕微鏡は、40 nmの空間分解能と、230 fsの時間分解能をもち、光励起された電子の空間的なダイナミクスを観察することができる。これまでに、フェムト秒の時間スケールで半導体表面で電子と正孔が再結合する過程のイメージング、及び、電子の空間的な運動のイメージングに成功している。今後は、ナノメートルの空間分解能も利用し、半導体ナノドットやナノワイヤ中のキャリアダイナミクス観察に取り組む。



図1. 時間分解光電子顕微鏡(Time-resolved photo emission electron microscopy:TR-PEEM)の外観図
                                                            
オミクロン社製の光電子顕微鏡の空間分解能は40 nm であり、時間分解能は230 fsである。第2高調波をポンプ光、第4高調波をプローブ光とした時の装置外観を図1に示す。フェムト秒レーザー(高フォトン密度光源)を励起光とする場合、試料の帯電が問題となる。周波数可変のパルスレーザーを導入することで、励起電子のイメージングに成功している。

                                  


図2. 非共鳴2光子光電子放出による時間分解能評価(試料:SiO2/Siウェハー)

ポンプ光(2.4 eV)及びプローブ光(4.8 eV)は、試料表面上でそれぞれ約100 μm×200 μm及び1 mm×2 mmに集光されており、その強度は10 μJ/cm2/pulseと10 nJ/cm2/pulseである(図2(a))。図2(b)に示すように、ポンプ光は価電子帯から伝導帯へ電子を励起し、プローブ光は伝導帯の電子を光電子放出する。ポンプ光とプローブ光の遅延時間を変化させたときのTR-PEEM像を図2(c),(d),(e)に示す。ポンプ光照射の0.6 ps前では、光電子放出のシグナルは弱く一様である。試料は基底状態にあると考えられる。時間的に重なっているとき(図2(d))は、最も強い2次元のガウス分布上の強度が得られた。これは、ポンプ光の形状、つまり励起電子の空間分布密度を表す。図2(e)では、強度が弱くなっている。図2(f)は、図2(d)中央付近に示した長方形内の強度平均を時間に対してプロットしている。ガウス関数によるフィッティングから、ポンプ光とプローブ光の相関関数は230 fsであり、時間分解能を反映している。

                                                            


図3.再結合過程のイメージング(試料:GaAsウェハー)
                                                            
実験セットアップは、図2での実験と同様であるが、ここでは励起電子の密度が減少していく過程(再結合過程)をイメージングしている。図3(c),(d),(e)は、TR-PEEM像であり、その中心付近の時間に対する強度変化を図3(f)にプロットした。0 psで増加した強度が減衰していく過程が見られる。2重減衰曲線によるフィッティングから1.5 psと60 psの時定数が得られた。前者は電子-格子の相互作用と同スケールであり、後者は再結合過程を表している。この測定は、フェムト秒スケールで電子ダイナミクスのイメージングに成功していることを証明する。

                                                            


図4. 電場勾配による励起電子の空間的ダイナミクス(試料:GaAsウェハー)
                                                            
試料表面にCu膜を蒸着し、電極としている。電極間の電場勾配は2000 V/cmである。ポンプ光照射後、20 psと40 psのTR-PEEM像を図3(b),(c)に示す。中央付近の楕円形の光電子強度が励起した電子の密度分布を反映している。図3(d),(e)は、図3(b),(c)中の長方形で選択した領域の拡大図であり、励起電子のバンチ位置をガウス関数によるフィッティングで算出している。電子は20 psで約2 μm移動していることが確認できる(図3(f))。ポンプ光照射から50 psまでを1 psごとに観察したTR-PEEM像に対し、同様の解析を行い、得られた電子バンチ位置を時間に対してプロットした(図3(g))。傾きが電子の移動速度であり、7.4×10^6 cm/sが得られた。電場勾配を考慮して、電子移動度(3700 cm2/V・s)が得られた。これは、イメージング法で電子の移動を直接観察し、電子のドリフト速度及び移動度を導出したはじめての測定である。