研究紹介

動的結晶構造解析が解き明かす、「静の中のなかの動」

固体の中の分子や原子は止まっている、と思いませんか? 実は、固体(結晶)中でも分子はアクティブに動きます。 例えば、光を当てると固体の中で分子が化学反応し、別の分子へと変化します。 結晶中を分子が移動したり、結晶が分子を呼吸したりすることもあります。このような結晶の中の分子の動き、結晶構造の変化である「静の中の動」を、原子、分子レベルでその挙動を詳細に明らかにします。動きを明らかにする結晶解析、つまりX線結晶構造解析の中でも、「動的結晶構造解析」と呼ばれるの世界です。

「固体の中での化学反応」は、溶液系と異なり、選択的反応による特異な生成物を与えるため、注目されている反応系ですが、その反応挙動は結晶構造解析により明らかにできます。
「ホトクロミズム」は、光照射により結晶の色が変化する現象として現れ、情報記憶材料や情報表示材料として注目されています。色変化のメカニズムを結晶構造解析により調べることは重要ですが、その研究はより性能の良い材料の開発につながります。
「結晶が分子を呼吸する」現象は、例えば水和物結晶が結晶水を放出して相転移すること、無水物結晶が空気中の水分を吸収して水和物結晶となる現象として、見られます。この現象は、医薬品原薬結晶の安定性の研究につながります。医薬品の結晶が製造中、加工中、保管中にどのように変化するのかを結晶構造解析により解明すれば、これらの現象の理解と制御につながります。

これらの結晶の変化を「動的に解析する」ためには、反応の前後、反応中の結晶構造をX線結晶構造解析する必要があります。これまでの研究の蓄積から、単結晶状態を保ったまま、固相光反応を行い、X線回折測定をすることができる様になりました。さらに、反応中の結晶からX線回折データを測定するために、短時間でデータ測定を行う「迅速測定装置」の開発を行いました。最新の装置は秒単位、ミリ秒単位での測定が可能です。

一方、反応の結果、単結晶状態が崩れ、粉末結晶になるケースもあります。そのときこそ、「粉末結晶構造解析」の出番です。現在では測定装置や解析ソフトウエアの進歩により、粉末X線回折パターンだけを使って、結晶構造解析ができる様になりました。この技術を駆使することにより、固相光反応や、医薬品結晶の脱水反応、熱相転移現象などの解明に成功しています。

結晶を合成しよう! 「クリスタル・エンジニアリング」

有機合成で機能性分子を合成できる様に、特別な分子の組み合わせにより結晶を作ることで、「高機能性結晶を合成」することができます。 結晶中の構造は作ってみるまでどうなるか分からないと言われますが、特定の結晶構造を作る「包接ホスト」分子を使うことで、鎖状構造や網目状構造を持つ「包接結晶」を狙って作ることができます。これは結晶設計である「クリスタル・エンジニアリング」の一例です。

包接結晶には、機能性を持つ「ゲスト」分子を入れることができ、その機能を最大限に発揮できる「高機能性結晶」として実用化されています。例えば、結晶に殺菌剤を含ませることで、薬剤がゆっくりと外界に放出される、徐放性材料を作ることができました。また、結晶に高分子の重合開始材を含ませることで、環境変化に強い材料を作ったり、重合開始温度を制御した材料を作ることもできます。

このような結晶設計や機能性の発現は、すべて包接結晶の構造に基づくものですから、X線結晶構造解析を行い、分子・原子レベルで、なぜそのような機能を持つのかを知ること、そしてその知識をもとに新しい包接結晶を設計することは重要なことです。

これまでの研究テーマ

以上のような、コンセプトで行われた研究テーマ(名)には次のようなものがあります。いずれも、テーマに従って学生が研究を推進し、自由な発想で成果を出しています。

有機包接化合物の結晶構造とその物性

医薬品水和物の粉末結晶構造解析と脱水挙動

粉末結晶構造解析による固相光反応の機構解明

放射光や原子炉を利用したX線・中性子回折実験

不安定化合物のX線結晶構造解析

励起構造/準安定構造のX線結晶構造解析

常温イオン液体の結晶構造とその物性

迅速X線回折装置の開発