研究内容の紹介

目次

具体的な研究内容

手法解説


はじめに

八島研究室ではX線や中性子線を用いた”結晶構造解析”によって、セラミックス材料の構造と物性の関係を詳細に解明し、次世代のセラミックス材料開発を目指した研究を進めています。 特に、高温状態での回折実験を行うことで、実際にセラミックス材料が動作する温度で何が起きているかを明らかにしています。 主なテーマとしては、イオン伝導体セラミックスのイオン拡散経路の解明や、バイオセラミックスのプロトン拡散経路の解明、光触媒の特性解明などを行っています。 さらに最近では、これまでの研究で培った知見に基づき新材料の探索・設計・開発などを進めています。
なぜ構造と物性の関係を調べる必要がるのでしょうか?たとえば同じ炭素でも構造の違いによって”柔らかくて黒い黒鉛”になったり”硬くて透明なダイヤモンド”になったりすることがあります。このような固体物性の違いは固体の構造-つまり”結晶構造”によって決まっています。必要な物性を持つ材料を開発するためには結晶構造と物性の関係を明らかにし、どのような構造をもつ材料を開発すればよいかを検討する必要があります。


新規イオン伝導体の探索

八島研では新しいイオン伝導体を戦略的に探索しています.
下図の例では,これまでにない新しい構造の型に属する新しい酸化物イオン伝導体の発見に成功しました. これはセラミックスの構造を構成する原子(厳密にはイオン)の大きさに注目した材料探索で見出したものです. その後,種々の元素置換などでイオン伝導度を向上させることにも成功しており,研究の広がりを見せています. (プレス発表資料(PDFが開きます)もご参照ください.



高イオン伝導度の構造的要因解明

イオン伝導度は結晶構造と密接な関係があるため,高いイオン伝導度が発現する要因を結晶構造の情報から議論することができます. 実は結晶構造解析をやるだけなら誰でも簡単にできるのですが,”正しく”構造を明らかにし,高いイオン伝導度の真の要因を明らかにすることは簡単ではなりません. 下図に示したアパタイト型酸化物イオン伝導体は,非常に高い酸化物イオン伝導度を示す材料です. これまで多くの結晶構造解析や理論計算で高いイオン伝導度の要因が議論されてきたのですが,実はそれが本当に正しいのか明確にされていない部分がありました. 八島研では,単結晶中性子回折法という回折法で最も信頼性が高い手法により,アパタイト型材料における高い酸化物イオン伝導度の要因が, 定説となっていた「格子間酸素の存在による」のではなく,「格子酸素(図中O4)の不安定化による」ことを明らかにしました. (プレス発表資料(PDFが開きます)もご参照ください.



イオン伝導体におけるイオン拡散経路の可視化




バイオセラミックスにおけるプロトン拡散経路の可視化

骨や歯の材料はカルシウムのリン酸塩から成るバイオセラミックスと呼ばれるものです。たとえば虫歯の原因として重要なことの一つに、プロトン(H+)が歯の中をどのように拡散するかということがあります。プロトンの拡散経路を明らかにすることができれば、虫歯になりづらいバイオセラミックスの設計に大きな貢献をすることができます。実際に、歯や骨の主成分である"水酸アパタイト(Ca10(PO4)6(OH)2)"について、高温中性子回折データに基づく精密な構造解析から、プロトンの拡散経路、化学結合(P-OとO-Hの共有結合)および相転移機構を明らかにすることに成功しました。


光触媒

光に応答して触媒作用が出るものを光触媒と呼びます。現在、可視光に応答して水の分解反応を起こす光触媒が新しいエネルギー源として注目を集めています。可視光(つまり太陽の光など)で水を分解して酸素と水素に変換することができれば、クリーンで永久に生み出せるエネルギー源となるわけですが、その開発にはいくつか問題があります。それはどのようなメカニズムで光触媒能が発現し、どのような構造にすれば可視領域で触媒能を示す物質が作れるかが、明確になっていないことです。光触媒の不思議や、新しい構造の設計ついて研究を進めています。


結晶構造解析

結晶にX線を当てると”回折”を起こします。得られる回折データは、結晶中に含まれる”構造情報”を含んでおり計算機を用いて解析することで”結晶構造”を明らかにすることができます。
八島研の特徴は単に結晶構造解析を行うだけではなく放射光や中性子を用いることで、より詳細な構造情報(たとえば電子密度分布や原子核密度分布)を解明しセラミックスが固体物性を発現させるメカニズムを詳細に解明しています。


X線回折や中性子回折で見えるもの

八島研究室では、X線や中性子を利用した回折実験を行っています。X線や中性子線を利用すると何が見えるのでしょうか?
X線は原子に含まれる”電子”によって散乱され、結晶中の電子密度分布を見ることができます。電子密度の濃い部分には、原子核があるので、その部分に原子を配置し、解析を進めることで、結晶中における原子配列などを知ることができます。このような通常の結晶構造解析の他に、放射光施設を利用した回折データから、より詳細な電子密度分布の解析を行い、原子間の結合状態を明らかにする研究も行っています。
一方、中性子は”原子核”によって散乱されます。そのため、中性子回折データからの構造解析では、原子核密度分布を見ることができます。たとえば、イオン伝導体の結晶構造において、原子核密度を明らかにすると、伝導するイオンの核密度分布から、どのような経路でイオンが流れるかを知ることができ、次世代のイオン伝導体開発への重要な情報を知ることができます。


放射光や中性子を利用するメリット

放射光や中性子を利用すると実験室系の装置に対するメリットがいくつかあります。

放射光を利用するメリット

+ 波長が変えられる
長波長を利用 : 角度分解能*の向上
短波長を利用 : 測定範囲が広がる、吸収の効果を小さくできる
+ 高強度(高輝度)
より短い時間で精度の良いデータが測定できる
+ エネルギー分解能が良い単色光
きれいな単色光なので、結果として角度分解能*の向上につながる
+ 大型の装置を利用できる
大型の回折計が利用できるため角度分解能*の良いデータが得られる
* 角度分解能 = 回折ピークの分離能, 分離している方が個々の回折強度を正確に知ることができる

中性子線を利用するメリット

+ 散乱能が電子数に依存しない
X線では見えづらい電子数の少ない軽元素でも中性子回折なら見やすい場合が多い
+ X線回折実験に比べ試料の配向の影響を受けにくい(特に高温測定)
透過で測定できることや、試料の量が多いことから配向の効果が低減します
+ 原子変位パラメーターを求めやすい
X線では決めづらい原子変位パラメーターを決定しやすく、より詳細な構造情報が得られます

このような放射光・中性子の特徴を活かして研究を進めています。


高温状態でのその場測定

セラミックス材料の多くは、高温で使用し、合成も高温で行います。その温度は1000ºCを超えることもあり、普段の気温とは大きく違う世界となっています。そのため、このようなセラミックス材料の特性や合成法について明らかにするためには、高温状態の結晶構造(さらには電子密度分布や核密度分布)を解明することがとても重要です。
しかし、実際に1000ºC以上の高温状態を観察することは容易ではありません。八島研究室では、独自に開発した電気炉を使い、放射光や中性子の回折計と組み合わせ、高温状態での回折測定が行えるシステムを立ち上げました。この装置によって、これまで見たことのない高温の世界を直接”見る”ことができるようになり、高温で動作するイオン伝導体のイオン拡散経路を明らかにすることなどに成功しました。最大で1600ºCという状態まで観察できる装置ですので、見たことのない新しい世界をこの装置で次々と見ることができると期待されます。