3)アルキン−コバルトカルボニル錯体を利用する炭素骨格構築反応

すでに我々はアルキン−コバルトカルボニル錯体形成を利用しアルキニルシクロプロパノールのシクロペンテノンへの転位反応を見いだしています。これらの研究の過程で、アルキンがコバルトと錯形成することにより、直線構造からアルケンに近い構造に変化することに興味を持ち、この錯形成による構造変化そのものを反応制御に利用することを目的に研究を行っています。

例えば、アルキンの両端にジエンとジエノフィル部位を有する基質は、そのままでは反応を起こしませんが、これをコバルト錯体にすると、容易に分子内Diels-Alder反応が進行し、錯体部位を含む環化体を与えます。さらにこの反応では、錯体をシリカゲルに吸着させると、反応速度が大きく加速されると同時に、原料と環化体との間の平衡が大きく環化体に傾くという興味深い現象を見いだしています。

また最近、従来の分子内Diels-Alder反応では得ることができなかった架橋型の環化体がコバルト錯体形成を利用することにより実現できることも明らかにしています。これらの反応は、天然有機化合物の合成に利用可能な多環性環状骨格を一挙に構築することができるだけでなく、アルキンコバルト錯体部位を有していることからさらなる炭素炭素結合形成が可能であり、有用性の高い反応です。