多くの有機分子は、光励起されても項間交差過程が遅く、一重項励起(S1)状態から高速で失活してしまうため、レドックス光増感剤として機能しない。一方、S1状態と三重項励起(T1)状態のエネルギー差を小さくすることで、項間交差を加速し、長い励起寿命を示す有機分子が、最近エレクトロルミネッセンス材料として開発された。これらの有機分子は、数十マイクロ秒と長寿命のT1状態から逆項間交差を経て遅延蛍光を示す (図)。
そのため、遅延蛍光を示す有機分子は、レドックス光増感剤として機能する可能性がある。発光材料と光増感剤とでは、求められる光物理的性質が大きく異なるため、光増感剤に最適化した有機分子を開発し、光触媒反応に適用する。すなわち、項間交差過程をより高速化し、S1状態からの失活を抑制する分子設計を明らかにする。元素戦略の観点や、メタルフリーな光有機合成を駆動するという点からも、有機分子光増感剤の開発は非常に重要である。
遅延蛍光を示す有機分子を用いた光増感反応
図. 遅延蛍光を示す有機分子の光物理過程