1)複核金属錯体触媒の創製と触媒機能開拓

  クロスカップリング反応を始めとする通常の金属触媒反応では,1つの金属原子が触媒として働きます。しかし,周期表上の限られたごく一部の貴金属に依存した現代の物質合成は限界を向かえつつあります。我々は,独自に開発した鋳型配位子を用いることで、金属−金属結合をもつ異種金属二核錯体の精密自在合成法を確立しました。これにより,周期表上の様々な2つの金属を組み合わせた新しい金属触媒ライブラリーが創出可能です。2つの金属が織りなす特異な電子状態や金属間協働作用を利用することで,従来の単核金属触媒では実現できなかった合成反応の開発や,従来触媒を凌駕する超高活性触媒の創出などを目指して研究を行っています。

  一例として,典型金属であるアルミニウムと遷移金属であるパラジウムを組み合わせた二核錯体触媒を用いることで,不活性小分子である二酸化炭素の還元反応が極めて効率的に進行することを見出し,同反応における触媒活性の世界最高記録を樹立しました。また,ガリウムとロジウムを組み合わせることで,低反応性分子であるニトリルをアミンではなくオキシムへと選択的に変換する反応の開発にも成功しています。他にも,その組み合わせを遷移金属同士,さらには3つ以上へと拡張した触媒開発や,メタンの効率的分子変換反応の開発などにも取り組んでおり,新しい有機合成化学・遷移金属触媒化学を開拓中です。