2)Ambiphilic典型元素ハイブリッド化合物の化学

  炭素−水素結合や炭素−炭素結合に代表される不活性結合の切断反応は,石油資源である単純炭化水素分子の直接変換につながるものとして,実験室レベルだけでなく工業的にも重要です。通常このような不活性結合を切断するには,極めて高い反応性をもつ遷移金属錯体(特に希少な貴金属)が必要とされます。一方で,炭素に限らず他の希少元素も含めて,様々な元素資源の枯渇や局在化は大きな問題となっており,我々化学者が解決すべき喫緊の課題となっています。

  我々は,複数の有機典型元素や典型金属元素,光エネルギーを協働的に利用することで,希少な貴金属に頼らない触媒反応や,高効率的かつ省資源型の革新的物質合成法の開発を目指した研究を行っています。一例として,ルイス塩基性のリン原子とルイス酸性のホウ素原子を併せ持つAmbiphilicホスフィン−ボラン化合物の効率的合成法の開発を基点とし,その光反応を新たに開拓することで,ホウ素による不活性炭素−炭素結合切断を伴う新奇反応を実現しました。複数の典型元素と光エネルギーを巧みに利用することで,新たな高反応性活性種の創出と貴金属にはできない革新的分子変換が可能になるのです。また,得られたAmbiphilicパイ共役系化合物を利用した機能性分子の開発にも取り組んでいます。また最近では,新たにAmbiphilicホスフィン−亜鉛化合物の効率的合成法を確立し,それをAmbiphilic配位子として利用した遷移金属錯体の合成と構造解析にも成功しています。まさに「新反応は新分子の創出を可能とし,新しい化学を切り拓く」といえるでしょう。この楽しさは,一度味わったら病みつきになること間違いなしです!